参入事例 #04

電力会社によるスマート農業を活用したししとう産地への参入

四国電力株式会社は「地域と共に生き、地域と共に歩み、地域と共に栄える」企業理念の下、事業基盤となる四国地域の発展に貢献するとの経営方針を掲げ、新規事業として農業分野への参入を進めた。2020年11月に、高知県でAitosa株式会社を設立し、ししとう栽培を開始した。収益の確保だけでなく、地域産業の維持・発展への貢献を重要な目的とし、あわせて、生産現場の省力化に資するスマート農業にも取り組んでいる。

参入の背景と動機 ― 「地域と共に生きる」電力会社が見た次の成長エンジン

四国電力が農業に着目した背景には、電力システム改革に伴う新たな収益源の確保という経営課題があった。「地域と共に生き、地域と共に歩み、地域と共に栄える」という企業理念の下、事業基盤である四国地域の発展に貢献する新たな事業・市場領域を模索する中で浮かび上がったのが、耕作放棄地の増加や人口流出、地域の衰退という農業を取り巻く課題だった。農業は四国の基幹産業であり、農業に活力をもたらすことが地域の活性化につながるという判断から、農業参入への検討が本格化した。

2017年3月、事業企画部にアグリビジネスグループを新設したことを皮切りに、2018年10月には香川県三木町で農業法人「あぐりぼん株式会社」を設立し、いちご(女峰)の生産で農業参入の第一歩を踏み出した。香川県でのいちご事業に続く第2弾として、2020年11月、高知県南国市に農業法人「Aitosa株式会社」を設立し、ししとうの生産・販売、スマート農業技術の研究開発という新たな事業領域への参入を果たした。収益の確保だけでなく、地域農業の維持・発展への貢献を重要な目的としている。

四国電力の本業(発電設備の点検)の様子

参入への決断と準備 ― 農地から品目、そして人選まで

農地の確保については、2019年から2020年にかけて、高知県へ相談したところ、県と南国市が整備を進めていた農業団地を紹介された。農地は農地中間管理機構を通じて集約されており、地権者との個別交渉を行うことなく確保できたことが、参入にとって大きな助けとなった。健全な営農体制の構築やJA出荷場の受入れ体制を踏まえ、当初は約30aでスタートし、2024年8月には66aまで栽培規模を拡大している。

営農品目の選定では、県からの要望、南国市の主力品目であること、事業採算性を総合的に検討し、ししとうを選定した。労働集約型作物であるししとうは、高齢化や後継者不足により生産量が激減していたが、参入により産地の維持拡大とブランド力・価格競争力の強化に貢献できると同時に、当時は栽培から選果・出荷まで全てが手作業であったことから、スマート農業による省力化に取り組む価値が高いと判断した。人選では、農業参入の事前の調査・計画・交渉を担当してきた四国電力社員を、ファームマネージャー(現代表取締役)として選出し、就農を目指す人向けの実践型研修施設「高知県農業担い手育成センター」で約1年間、基礎知識と栽培技術を学んだ上で、2021年9月に営農を開始した。

Aitosaで収穫された「高知のししとう」

行政・地域から受けた支援

企業進出協定書による自治体・JAとの協力体制

Aitosa設立に先立つ2020年10月23日、四国電力は高知県・南国市・JA高知県との間で、互いの協力関係を取り決めた「企業進出協定書」を締結した。参入に先駆けて4者間で役割を確認の上協力体制を構築したことで、農地の確保から販路の構築まで、行政・JAとの緊密な連携の下で参入準備を進める土台が整った。高知県は農地の紹介や技術指導、関係機関との調整などを担い、参入後も継続的に相談対応を行っている。南国市は農業団地の整備に携わり、企業が円滑に参入できる環境づくりや地域との橋渡し役を担った。JAは生産者部会との調整を行い、ししとうの共同出荷を担っている。地域産地への貢献を重視するため、販路はJA高知県への系統出荷を基本としている。

企業進出協定書の締結式(高知県・南国市・JA高知県・四国電力)

「高知のししとうを盛り上げる会」による地域生産者との連携

Aitosaは地元生産者部会に入会し、同じ「高知のししとう」を作る仲間とともに、2022年4月に「高知のししとうを盛り上げる会」を立ち上げた。ししとうを使用した名産品や加工品の開発をはじめ、多種多様なイベントへの参加を通じて、日本一の「高知のししとう」のPR、ブランド力・魅力向上に取り組んでおり、地域の農業者と一体となった産地づくりを進めている。地域産地の発展を目的とする姿勢を丁寧に説明しながらこうした活動を重ねてきたことが、地域との信頼関係の構築、ひいては企業参入への理解につながっている。

農業参入の取組と工夫

スマート農業による省力化への取組

当時は栽培から選果・出荷まで全てが手作業であったことから、Aitosaは生産現場の省力化に資するスマート農業にも積極的に取り組んでいる。環境制御機器の導入やデータを活用した栽培管理によりハウス内の生育環境を最適化し、収穫量の増加と作業負担の軽減を図っている。

環境制御機器を活用したハウス内での栽培管理の様子

「楽に、楽しく、儲かる」働きやすい職場づくり

現在Aitosaには社員3名・パートスタッフ33名の計36名が在籍し、近隣4市から男性14名・女性19名、24歳から74歳(平均年齢50歳)までの従業員が農作業に従事している。ライフバランスに合わせて働きやすい勤務体系や作業環境を整えたことで、幅広く地域の雇用を創出するとともに人材の定着を実現した。広々とした休憩スペースや清潔な更衣室、授乳室の整備、休校時の子連れ出勤OKなど、子育てとの両立を含めた働きやすい環境づくりに力を入れており、創業時から離職者をほぼ出さず、安定した生産体制の確立につながっている。

Aitosaのスタッフ一同

これからの展望 ― 日本一の産地を守り育てる

営農開始当初は計画値を大きく下回る営農成績からのスタートだったが、1作目・2作目と経験を重ねる中で収量と秀品率が向上し、販売額は大幅に増加。収量は高知県下でも最上位クラスの水準に達し、2024年8月には栽培規模を66aへ拡大し、雇用創出の面でも歩みを進めた。

Aitosaは今後も、日本一の「高知のししとう」の産地としての地位を守り育てながら、スマート農業と地域との共生を両立させるモデルを追求していく。「ししとう狩り」体験や地元飲食店とのコラボレーションによる新商品開発など、次世代や地域住民にししとうの魅力を伝える活動も継続し、電力会社発の異業種参入が切り拓いた新しい産地づくりのかたちを、これからも高知から発信し続ける。

ししとうコンテナを持つ代表取締役

法人プロフィール

会社名(参入検討法人)
農業法人名
所在地(農場)

高知県 南国市

参入業種

電力(発電・エネルギー)

栽培品目

ししとう

農地規模

66a(2026年7月時点)

従業員数

36名(社員3名、パート33名)

法人形態

四国電力95%・アグリビジネス投資育成(農林中央金庫信託口)5%出資の株式会社(別法人を設立して参入)

関連資料

本記事は農林水産省 第3回情報交換会資料「4つの"アイ"が結ぶ新たな出逢い」(Aitosa株式会社、2025年10月10日)及び四国電力株式会社確認済み資料「四国電力参入事例」を基に作成しています。会社概要・従業員数等は2026年7月時点の情報です。