参入までの流れ
農業参入を検討する法人向けに、検討開始から経営発展までを5つのSTEPで整理したロードマップです。各STEPで取り組むべきこと、活用できる支援策、参考資料へのリンクなどを紹介しています。
5つのSTEPは、一般的な企業の農業参入プロセスを段階ごとに整理したものです。気になるSTEPから読み進めていただけます。
STEP1|知る
農業参入の全体像を理解する
最初のSTEPでは、企業等の農業参入に関する現状や法制度、先行事例を俯瞰し、自社の検討の土台を作ります。体系的に理解を深めることで、STEP2以降の意思決定がより的確に行えるようになります。
1-1. 農業参入の現状と動向
我が国の農業は、農地が限られた面積しかなく、農業者の急速な減少や高齢化が見込まれることに加え、国際情勢の不安定化や気候変動による異常気象の頻発化などの大きな環境変化に直面しています。こうした状況において、農業を行う法人(農業法人)は、その数が年々増加しており、経営耕地面積の約3割、農産物販売金額の4割超を担うなど、重要な役割を果たしています。
この農業法人については、設立した主体で見ると、個々の農業者が経営を法人化したもの、異業種の企業が設立したものなどがあり、組織形態で見ると、会社法に基づき設立されたもの(株式会社、合同会社など)、農協法に基づき設立されたもの(農事組合法人)などがあります。
1-2. 農地の取得
農業法人が農業生産の基盤である農地を取得しようとする場合には、農地所有適格法人又は一般法人の要件を満たした上で、農業委員会の許可を受ける必要があります。
- 農地所有適格法人:農地の「所有」又は「貸借」ができる法人。法人形態(株式会社(公開会社でないもの)、農事組合法人、合名会社、合資会社、合同会社)、事業内容(主たる事業が農業)、議決権(農業関係者が総議決権の過半を占める)、役員(常時従事者が過半数を占める)の要件を満たす必要があります。
- 一般法人:農地の「貸借」ができる法人。貸借契約に解除条件が付されていること、業務執行役員等の1人以上が耕作の事業(農作業に限られず、マーケティング等経営や企画に関するものであっても可)に常時従事するなどの要件を満たす必要があります。
1-3. 農地所有適格法人の要件
農地所有適格法人は株式会社の場合、総議決権の過半を農業関係者(農地の提供者・農業に常時従事する者等)が占めることなどの要件があります。
このため、子会社を設立して農業参入する場合、親会社は「農業関係者」に該当しないことから、親会社の出資比率は50パーセント未満(実務上は49パーセント以下)に抑え、農業関係者が残りの議決権を保有する株主構成にする必要があります。
ただし、農林水産大臣の認定を受けた農業経営発展計画に基づき、食品事業者等が農地所有適格法人に出資する際に議決権要件の特例(最大10年)が認められる場合があります。
定款で押さえるべき主なポイント
- 事業目的条項:農業を主たる事業として明記し、農業生産以外に農産物の加工・販売など農業関連事業(附帯事業)を行う場合は、その旨を列挙して記載します。また、定款の記載だけでなく、売上の過半が農業(関連事業を含む)を占めることができるかにも留意する必要があります。
- 株式の譲渡制限条項:株式会社である農地所有適格法人は「公開会社でないもの」、すなわち全株式に譲渡制限が付いた会社である必要があります(会社法上の「非公開会社」)。全株式について取締役会または株主総会の承認を要する旨を定款に明記します。
- 役員構成との整合:農業に年間150日以上従事する「常時従事者」が役員の過半数を占める必要があります。定款の役員に関する規定(員数・選任方法等)が、この要件を充足できる内容で記載します。
- 定款の具体的な記載内容は、設立する法人形態(株式会社・農事組合法人・持分会社)や農地の利用計画によって異なるため、司法書士・弁護士・農業委員会への事前確認を推奨します。
1-4. 参入のメリットと留意点
農業に参入するメリットは法人によって様々ありますが、たとえば自社の食品事業や流通事業とのバリューチェーン強化、原材料の安定確保、ブランディング、地域貢献・ESG・人材育成など、本業との相乗効果が期待できます。一方で、自然を相手とする産業であることなどから、天候・病害虫による収量や価格の変動が大きいことや、農産物の生産・収穫できる時期が限られており、かつ初期投資も必要となることから、投資回収期間が長期化しやすいことなどに留意する必要があります。
1-5. 参入事例を知る
すでに多くの企業が農業参入しており、こうした参入法人の事例集が公開されています。業種・規模・地域・参入方式の異なる多様な事例を俯瞰することで、自社が取り得る選択肢の広がりを把握できるため、STEP2以降の構想・計画段階における参考とすることができます。
STEP2|構想する
自社の参入目的と方向性を固める
STEP1で全体像をつかんだら、次は自社の事業構想を練ります。「なぜ・何を・どこで・どうやって」を初期段階で言語化し、STEP3以降の相談・計画段階で具体化に繋げます。
2-1. 参入目的の明確化
「なぜ自社が農業に参入するのか」を言語化することがすべての出発点です。本業との関連性(原材料の安定調達/販路活用/新規事業など)、達成したい事業ゴール、参入リスクなどを整理し、社内合意形成の土台をつくります。経営層・事業部門・現場の認識のズレを早期に解消することで、STEP3以降の交渉や意思決定で「最初の問い」に立ち戻れる礎ができます。
2-2. 作物・規模・地域の選定
自社のバリューチェーンとの親和性、栽培難易度、地域の気候・土壌適性、販路の有無などを総合的に検討して、方向性を導き出します。規模については、専門誌などで農産物の取引価格、農林水産省が公表している統計データなどで単位面積当たりの収量や収益性も確認して、「採算ラインに必要な面積」を逆算し、小さく始めて段階的に拡大するアプローチが現実的です。地域選定は、後続のSTEP2-3で地域側の動向を踏まえつつ、STEP3で行政と相談しながら絞り込みます。
2-3. 地域情報の収集
農業参入に際しては、地域の実情を把握することが欠かせません。参入しようとしている地域や行政の現状・課題や重点的に取り組んでいることなどについて、都道府県や市町村のホームページなどから情報を収集します。また、地域農業の将来像である地域計画を確認することで、受け手不在の農地が多い地域や、地域の企業参入ニーズの傾向などが見えてくるため、こうした情報収集を行うことで自社の方向性と地域側のニーズの重なりを早期に見極められます。
STEP3|相談する
行政・地域とつながる
自社の事業構想がイメージできた段階で、行政の相談窓口や参入支援イベントを通じて、地域との関係構築を始めます。まずは、電話などでの問い合わせを行い、Web情報だけでは判断しきれない内容などへの理解を深め、事業構想のブラッシュアップを進めます。
3-1. 相談窓口の活用(国・都道府県・市町村)
国(農林水産省本省・地方農政局)や全国の都道府県には、企業参入に関する相談窓口が設置されています。また、市町村では、地域に密着した企業参入を含む農業全般に関する相談対応を行っています。
各相談窓口の連絡先などの詳細は、姉妹コンテンツ相談窓口を参照してください。
3-2. 農業参入フェア
農林水産省は、毎年、参入希望法人と誘致したい地域とのマッチングの場を提供する農業参入フェアを開催しています。本イベントでは、基調講演や事例発表のほか、多くの自治体が相談ブースを出展しているため、効率的に情報収集ができます。また、都道府県などが主催する農業参入に関する説明会や現地視察ツアーも活用できます。
農業参入フェア等のイベントの情報の詳細は、支援情報を参照してください。
STEP4|計画する
事業計画を策定する
事業構想の大枠が見えてきたら、次に事業計画(生産・販売、資金、人材など)を策定し、各種支援制度の活用も含めて、事業計画の実行可能性を高めます。本STEPで作成する事業計画書は、STEP5の許可申請や支援制度申請の基礎資料にもなります。
4-1. 事業計画の策定(生産・販売、資金、人材など)
事業計画は目的や期間などで区分できますが、農業経営の基礎となるのは生産・販売計画であり、栽培品目・栽培スケジュール・販売先・販売数量などに関する計画です。このほか、人員計画として、営農責任者(農場長等)、現場作業者、繁忙期の補助要員の確保方針だけでなく、技能習得の方針(研修機関や先進農家での研修、新規就農者向けの公的研修制度の活用等)などに関する計画を生産・販売計画と連動するように策定します。また、農業は季節性がある事業であり、収入が入ってくる時期が生産する農畜産物によって異なるなどの特徴を踏まえて、資金計画も策定します。これらの計画以外にも、必要に応じて計画を立て、計画と業績に乖離が生じた場合に検証・修正し、経営改善につなげることができるよう留意します。
なお、必要に応じて、事業計画の策定にあたって、農業分野での支援実績がある金融機関や中小企業診断士などの外部機関にも相談することで、その実現可能性などの検証も行えます。
また、農林水産省では、農業経営の管理能力向上を支援する農業経営人材育成研修プログラム(初級・中級コースのオンライン研修)と、作付計画・資金計画・人材計画を含む事業計画書の作成や収支シミュレーションができる農業法人化支援システムを無料で提供しており、農業参入計画の策定の際に活用できます。
4-2. 収支シミュレーション
国や自治体が公表している統計情報などを活用して作物別の収益性を把握し、自社の販売条件を踏まえ、3〜5年程度の損益見通しを作成します。その際、初期投資(機械・施設の導入費、農地造成費など)と運転資金(種苗・肥料・人件費など)を分けて把握し、投資回収期間とキャッシュフローを明確にしておくことが重要です。また、栽培技術の習得・向上は、販売する農畜産物の品質・価格だけでなく、販路にも大きな影響を与える要因となることから、できるだけ客観的に評価した上で損益見通しを作成します。
4-3. 活用できる補助金・融資制度
補助金や融資制度については、国や自治体の予算に基づいて措置されているため、活用できる支援策の内容は毎年更新されます。このため、農林水産省の支援策の活用を検討する場合は、ホームページに掲載されている「逆引き事典」や「農業経営支援策活用カタログ」などを確認します。
また、国(農林水産省)の補助金・融資・税制などの主な支援策は、支援情報を参照してください。
4-4. 税制特例の活用
農地中間管理機構(農地バンク)を活用して農業参入する場合、税制特例が活用できます。税制特例を活用する際は、所管の税務署や都道府県税事務所などへ詳細な要件を確認する必要があります。
- 出し手(農地所有者)の固定資産税軽減:一の地域計画内に所有する全ての農地(10a未満の自作地を除く)を新たに農地中間管理機構(農地バンク)に10年以上貸し付けた所有者は、固定資産税が3年間2分の1に軽減されます。出し手のインセンティブとなるため、参入法人にとっては間接的なメリットになります。
- 出し手(譲渡者)の譲渡所得税の特別控除:同機構を通じた農用地区域内の農地の譲渡(地域計画に基づく同機構への譲渡等)により、譲渡所得から最大800万円(同機構との買入協議による譲渡は1,500万円)を特別控除できます。所有者の譲渡判断を後押しする効果があります。
- 受け手の登録免許税・不動産取得税の軽減:同機構を通じた農用地区域内の農地取得に対し、登録免許税が2パーセントから1パーセント、不動産取得税は課税標準の3分の1控除となります。法人が農地を所有して参入する場合に直接活用できる措置です。
STEP5|始める
農地確保から経営発展まで
農地確保の見込みが立った段階で、農地法に基づく許可申請や農地転用許可などの手続きを行います。手続きには関係機関や専門家(行政書士・司法書士等)などとの調整を伴うため、スケジュール管理が重要です。
5-1. 農地の権利設定・転用
農地に関する権利を取得するためには、農業委員会の許可(農地法第3条)による方法と、農地バンクから賃借権の設定等を受ける方法があります。権利取得する農地が所在する市町村や農業委員会、都道府県農地バンクのホームページなどを確認し、必要書類を作成して申請等を行います。申請にあたって不明な点等がある場合は、電話での問合わせや窓口で相談するなどして、円滑に権利が取得できるようにしておくことで、参入までのスケジュールが見通しやすくなります。
また、農地に倉庫・集荷施設・選果場・育苗ハウス(基礎を固定するもの)等の施設を設置する場合は、原則都道府県知事等による農地転用許可(農地法第4条・第5条)が必要になりますが、許可申請書等の提出先は当該農地が所在する市町村の農業委員会になります。農地転用許可は、立地基準(農用地区域内農地・第1種農地などの優良農地は原則不許可)と一般基準(転用の確実性の審査等)のいずれも満たす必要があるため、事前に農業委員会などに相談することが重要です。
5-2. 地域計画(目標地図)
地域計画は、市町村が農業経営基盤強化促進法に基づいて策定する計画で、誰が・どこの農地で・どんな作物を・どのように栽培するのか、地域農業の将来像を、地域のみんなで話し合い、作り上げていくものです。
農地を確保するためには、原則として、地域計画(目標地図)に位置付けられている必要があります。地域計画の策定・見直しプロセスに参加するために、参入を検討している市町村や農業委員会など関係機関に対して早い段階で意向を伝え、地域との信頼関係を築くことが重要です。
5-3. 農地利用の報告義務
農地を所有又は貸借して営農する法人は、農地法の規定により、毎事業年度終了後3か月以内に、農地の所在する市町村の農業委員会へ事業状況等を報告する義務があります。報告を怠った農地所有適格法人には30万円以下の過料が科される可能性があるため、社内での運用体制の整備が必要です。報告内容には農地の利用状況・役員の農業従事状況等が含まれ、参入後の継続的な要件充足を示す重要な手続きです。
5-4. 認定農業者制度
認定農業者制度は、農業者(農業参入した法人を含む。)が市町村の農業経営基盤強化促進基本構想に示された農業経営の目標に向けて、自らの創意工夫に基づき、経営の改善を進めようとする計画を市町村等が認定(複数市町村で農業を営む農業者が経営改善計画の認定を申請する場合は、営農区域に応じて都道府県又は国が認定)し、これらの認定を受けた農業者に対して支援措置を講じるものです。
この認定を受けることで、農林水産省からの支援策だけでなく、自治体からの支援策が活用しやすくなる場合がある(補助対象者の要件となっている等)ため、積極的に活用を検討してください。