参入事例 #02

地銀が農地を耕す。南都銀行の有機米づくりと中山間地再生

銀行が農業に参入する。一見意外に映るこの取組の背景には、奈良県宇陀市の中山間地域が直面する深刻な農業の担い手不足という現実がある。株式会社南都銀行は2019年の銀行法改正を契機に農業参入を決断。2021年、グループ子会社「奈良みらいデザイン株式会社」を設立し、宇陀市の豊かな山水と冷涼な気候を生かした有機米づくりをスタートさせた。

参入の背景と動機 ― 地銀が地域農業の危機に向き合う

奈良県宇陀市は、市内の土地利用の約8割を山林が占める中山間地域である。良質な山水を生かした米づくりや夏期の冷涼な気候を活用した農業が古くから盛んな一方、農業者の高齢化と担い手不足は深刻で、地域農業の維持が困難な状況に陥りつつあった。

農地風景

こうした地域課題を間近で見てきた南都銀行が参入のきっかけとしたのが、2019年の銀行法改正だ。この改正により、地域活性化を目的とした事業会社の設立が金融機関にも認められるようになった。南都銀行は、単なる融資先・支援対象として農業者と向き合うだけでなく、自ら課題解決の担い手となることを目指し、農業参入という選択肢を真剣に検討し始めた。

農業参入には、現場での課題を農業者と共有しながら農業経営の知見を蓄積することで、将来的な支援力の強化につなげるという戦略的な狙いもある。「地域の課題を地域と共に解決する」という南都銀行の姿勢が、この取組の根幹にある。

参入への決断と準備 ― 農機具メーカーとの連携が突破口に

2021年4月、南都銀行はグループ会社として「奈良みらいデザイン株式会社」を設立した。南都グループが49.9%を出資し、行員2名を出向派遣する形で営農体制を整えた。しかし、銀行業を本業とする同行に農業技術・営農ノウハウはなく、どう農業を進めるかが最初の課題となった。

栽培品目には、宇陀市が推進する有機農業の市の農政方針に合致する有機米を選択。有機JAS認証の取得を目指しながら、地域と行政が一体となった参入体制を着実に構築していった。

行政・地域から受けた支援

宇陀市による有機農業推進クラスターの形成と政策支援

宇陀市は有機農業の普及とブランド化に関する宣言を行い、賛同する関係者をネットワーク化したクラスターを形成して政策支援を実施している。南都銀行の参入はこの市の農政方針と合致しており、農地の紹介・補助金支援等を通じた行政の関与が参入を後押しした。また、栽培品目に有機米を選択したことで、市の施策とより密接に連携できる体制が整った。

参入後も続く市との継続的な情報共有

参入後、行員が現地に常駐し真摯に営農に取り組む姿勢を示すとともに、市の担当職員との定期的な情報共有を継続してきた。こうした取組が地元の農業者や行政との信頼関係の構築にもつながり、2026年2月時点でも宇陀市に対して定期的な相談対応の継続と新たな農地の紹介等を依頼している。地域課題の解決を目指す姿勢が、行政との長期的なパートナーシップの土台となっている。

農業参入の取組と工夫

有機米づくりと6次産業化による高付加価値化

有機米の栽培

奈良みらいデザインが力を入れるのが、有機JAS認証を取得した有機米の生産だ。宇陀市の良質な山水と冷涼な気候を最大限に生かし、約2.4haのほ場(協力農業者ほ場を含む)で有機栽培に取り組む。

販路は市場変動リスクを抑えた安定的な確保を重視し、学校給食や南都銀行の株主優待向け販売を中心に展開。銀行という既存のネットワークを活用した独自の販路戦略が奏功している。さらに、収穫した酒造好適米を活用した日本酒の開発など6次産業化にも積極的に取り組み、農産物の高付加価値化を推進している。

有機米 にじのきらめき
日本酒 KASAMA

農福連携による持続可能な営農体制の構築

農業経営において課題となりやすい労働力不足の解消に向け、奈良みらいデザインは圃場に近い福祉施設との連携(農福連携)を積極的に活用している。繁忙期の作業補助に施設利用者が参加することで、農業側の人手不足解消と障がい者の就労・自立支援を同時に実現するwin-winの関係を築いている。出向行員2名という少人数体制でも安定した営農を維持できているのは、この農福連携による柔軟な労働力確保が大きく寄与している。

農福連携の作業風景

地域との信頼関係を育む「現場主義」

農業参入において最も重要かつ難しいのが、地元農業者・地域住民との信頼関係の構築だ。奈良みらいデザインでは、出向行員が現地に常駐し、草刈りや水管理といった地域慣行を丁寧に守りながら真摯に営農に取り組んできた。また、宇陀市の担当職員との定期的な情報共有を継続することで、行政との連携も密に保っている。「地域の課題を共に解決しようとしている」という姿勢が地元農業者・地権者に伝わり、農地提供・作業協力・技術指導という形の実質的な支援につながっている。

出向行員
出向行員の作業風景

これからの展望 ― 農業の知見を地域支援の力に変える

奈良みらいデザインは現在も、宇陀市との定期的な情報共有・相談対応を継続しながら、新たな農地の紹介・受け入れを検討している(2026年2月時点)。農業参入から約4年を経て、現場での実践から蓄積してきた農業経営の知見は、南都銀行グループ全体の地域支援力の強化という当初の目標に着実に近づきつつある。

今後の展望として、有機農業のさらなる拡大と6次産業化の深化が挙げられる。日本酒等の加工品の開発・販売を通じて農産物の付加価値を高め、宇陀市の農業ブランドの確立にも貢献していく考えだ。また、農福連携の輪を地域内でさらに広げていくことも検討している。

「地域の課題は地域と一緒に解決する」。銀行が農業の現場に立ち、泥まみれになりながら地域と向き合うこの取組は、金融機関による地域貢献の新たなあり方を示している。中山間地農業の担い手不足という全国共通の課題に対し、南都銀行・奈良みらいデザインの挑戦は続く。

法人プロフィール

会社名(参入検討法人)
農業法人名

奈良みらいデザイン株式会社

所在地(農場)

奈良県 宇陀市

参入業種

金融(地方銀行)

栽培品目

有機米・野菜

農地規模

有機米2.4ha・野菜0.4ha(協力農業者含む)

法人形態

銀行グループ会社(南都銀行 49.9%出資)

本記事は令和8年3月時点の情報を基に作成しています。