参入事例 #01

菓子メーカーと地域農業者が共に築く、新しい米づくり

新潟を代表する菓子メーカー・亀田製菓株式会社が、地元農業者5名と手を携え、新潟県阿賀野市で稲作に参入した。設立したのは「合同会社ナイスライスファーム」。地域と対等に向き合いながら、原料米の安定調達と地域農業の持続という二つの課題を同時に解決しようとする挑戦の軌跡を追う。

参入の背景と動機 ― 「米穀流通2040年ビジョン」が示した危機感

2024年3月、全米販(全国米穀販売事業共済協同組合)が公表した「米穀流通2040年ビジョン」は、国内需要を賄うための米生産量が将来的に確保できなくなるという厳しい予測を示した。コメを主原料とする菓子を製造・販売する亀田製菓にとって、この予測は原料調達の根幹を揺るがすものだった。同時に、毎年多くの農業者が離農していく現実も目の当たりにしていた。とりわけ主力工場のひとつ・水原工場が立地する新潟県阿賀野市では、10年以上にわたり地元農業者と加工用米の契約栽培を続けてきたが、担い手の減少は確実に進んでいた。

阿賀野市で続く加工用米の契約栽培

企業が農業参入を検討する際、その動機はしばしば「コスト削減」や「原料確保」に偏りがちだ。しかし亀田製菓が掲げたのは、稲作従事者がより長く農業を続けられる環境をつくるという、地域農業の持続可能性そのものだった。「自社の利益だけでなく、地域とともに農業を守る」という姿勢が、この取組の出発点となった。

参入への決断と準備 ― 信頼関係から生まれた「地域一体型」の仕組み

検討開始からわずか約1年で法人設立に至った背景には、徹底した関係者との対話があった。2024年4月、亀田製菓はいち早く阿賀野市とJA新潟かがやきに構想を説明し、方向性を共有。行政・JAを最初から協力者として巻き込むことで、地元農業者の不安を取り除く土台を整えた。

法人形態として合同会社を選んだのも戦略的な判断だった。亀田製菓が参画農業者と同比率で対等出資することで、企業が一方的に主導するのではなく、地域農業者が共同経営者として参画する構造を明確にした。JA新潟かがやきは説明会の開催呼びかけや候補農業者への個別説明を担い、阿賀野市は参入前から相談窓口として機能した。2024年12月から始まった地元農業者への説明会は計4回を重ね、5名の農業者が参画を決断。2025年2月の法人設立、同年4月の作付開始へとスムーズにつながった。

行政・地域から受けた支援

阿賀野市による相談窓口機能と継続的な連携

検討初期段階の2024年4月に、阿賀野市とJAに説明し、参入に当たっての方向性を共有した。阿賀野市は参入前から相談窓口として機能し、参入後も市施策等を通じて密に連携している。市との早期の信頼構築が、地元農業者や関係機関への説明をスムーズに進める土台となった。また、阿賀野市には亀田製菓グループの工場が立地しており、10年以上前から農業者との契約栽培を通じた関係性があったことも、協力体制の迅速な構築を後押しした。

JA新潟かがやきあがのアグリセンターによる農業者への働きかけ

JA新潟かがやきあがのアグリセンターは、地元農業者を対象とした事業説明会の開催呼びかけや候補農業者への個別説明に積極的に関与した。JAの会議室を借用して計4回の説明会を開催し、JAのOBネットワークも活用しながら農業者への理解醸成を進めた。収穫後の全量出荷先としてJAが機能することで農業者側の経営不安が軽減され、合同会社への参画決定につながった。

農業参入の取組と工夫

農地の集約と団地化による作業効率の追求

参画農業者が所有する農地を核に、JAと連携しながら周辺農業法人との農地交換を実施し、32haの農地を集積した。ただし面積の確保だけでなく、品種ごとの団地化を意識して農地を5つのまとまりに整理した点が特徴的だ。団地化により作業動線が整理され、機械の移動ロスが削減されるとともに、品種管理の精度も向上する。規模拡大と品質管理を両立させる農地設計が、持続的な経営の基盤となっている。

多品種栽培と新技術への挑戦

主食用米・酒造好適米・加工用米の3カテゴリーを栽培し、需要変動リスクを分散している。また一部の水田を試験田として確保し、米菓の原料に適した新品種の作付けや、乾田直播など省力化につながる新技術の実証にも取り組む。気候変動への対応として多収・高温耐性を持つ新品種の導入も進めており、将来を見据えた品種更新を着実に進めている。

安定販路の確保で農業者の経営不安を解消

収穫した米は全量JAへ出荷する仕組みを採用。主食用米はJAが販売し、加工用米はJAを通じて亀田製菓が全量買い取る。「確実な買い手」を前提に据えることで、農業者が販路を心配せず生産に専念できる環境を整えた。JAのOBも法人に参画しJAとの橋渡し役を担うなど、流通・販売面でのきめ細かい連携体制も構築している。

稲作(主食用・酒米・加工用)
ドローンでの農薬散布
春の田植え研修
秋の収穫祭研修

これからの展望 ― 地域農業の継承モデルとして

2026年4月には第2期目の作付けを開始し、ナイスライスファームの取組は着実に歩みを進めている。今後の焦点は、この取組を安定した経営モデルとして確立し、地域農業の継承につなげることだ。試験田での新品種・新技術の成果を本圃に展開することで収量・品質の向上を図りつつ、営農面積のさらなる拡大も視野に入る。

亀田製菓が描くのは、単なる原料調達の内製化ではない。企業・農業者・JA・行政が役割を分担し、それぞれの強みを持ち寄る「地域一体型」の農業参入モデルを、新潟から全国へ広げていくことだ。離農が続くなか、地域の農地と技術をどう次世代に引き継ぐか——その問いに対するひとつの答えが、阿賀野市の32haのほ場で育まれている。

ナイスライスファーム 斉藤代表
亀田製菓 五十嵐 購買部長

法人プロフィール

会社名(参入検討法人)
農業法人名
所在地(農場)

新潟県 阿賀野市

参入業種

食品(米菓メーカー)

栽培品目

稲作(主食用・酒米・加工用)

農地規模

32 ha(農地5区画に団地化)

法人形態

地元農業者5名と対等出資の合同会社

本記事は令和8年3月時点の情報を基に作成しています。